股関節唇損傷・FAI / 股関節鏡手術
関節鏡手術の中でも難易度の高い手術と考えられており、股関節鏡視下手術ができる施設は限られているのが現状です。
当院では股関節鏡手術の経験豊富な技術認定医である主治医により手術を行います(日本股関節学会 股関節鏡技術認定医:国内で19名(2019年時点))。主に大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI: Femoroacetabular impingement)により生じた股関節唇損傷に対して行われます。サッカー・ラグビー・野球などのスポーツ選手に多く、男性に多い傾向があります。診断には身体所見だけでなく通常の単純レントゲンとは異なる撮影方法(modified Dunn view)や股関節唇損傷を見逃さないように放射状撮影を追加したMRI、エコーガイド下股関節内ブロックなどの結果から総合的な判断で診断を行います。
そのため、FAI治療経験のある専門医に診断を受けることが重要です。
FAIには大腿骨側に骨膨隆部があるCAM type、寛骨臼側に骨性突出部があるPincer typeがあります。CAM typeにおいては膨隆部が大きいほど軟骨損傷を引き起こすリスクが高くなると報告されています。そのため治療時期が重要になります。
また、スポーツだけでなく日常生活動作において車の乗り降りで鼠径部痛を認めたり、ずれる感じや引っ掛かりを感じる場合も股関節唇損傷の可能性があります。股関節唇は股関節を安定化させるために重要です。
当院では股関節唇切除は行わず、可能な限り縫合術や再建術を用いて股関節唇を温存します。
また、軽度な寛骨臼形成不全(境界型寛骨臼形成不全)に対しても骨形態を評価の上、股関節鏡手術を行う場合もあります。その場合は股関節安定性に重要な役割を担う関節包による処置が大切になります。当院では最小限の関節包切開または十分な関節包縫縮術にて術後股関節不安定が生じないように処置を行います。形成不全の程度によっては関節鏡での対処は難しくなるため、診断・治療には注意が必要です。
その他の疾患としては良性腫瘍である滑膜性骨軟骨腫症があります。以前は大きく皮膚を切開して股関節を脱臼させて行う術式でしたが、関節鏡で低侵襲に行うことも可能になってきています。
関節唇と軟骨の連結している部位の損傷
CAM type FAIによる股関節唇損傷例
術前Cam(大腿骨膨隆部:矢頭)評価
α角:Cam病変の大きさの指標(正常:50度未満)
この症例ではα角72°であり、大きいCam病変を認める
術後Cam(大腿骨膨隆部:矢頭)評価
股関節鏡手術により正常範囲のα角にまで改善術後鼠径部痛も改善