前十字靭帯断裂
前十字靭帯は膝関節を安定させるために重要な靭帯です。その靭帯が断裂してしまうと、膝が不安定性になりスポーツでのパフォーマンス低下が生じるため、スポーツ継続を希望される方は基本的に手術加療が必要になります。保存加療で対応した場合、日常生活動作程度であれば、たまに不安定感を自覚する程度で症状は落ち着きますが、中・長期的には下記に記載するように半月板損傷・軟骨損傷も合併し変形性膝関節症に進行してしまう危険性が高くなります。
当院では、主に2つの再建方法で前十字靭帯再建術を施行しています。
(再建術:別の組織を用いて断裂した靭帯の代用すること)
どちらの方法を用いるかは患者様の年齢・性別やスポーツ特性・復帰時期などをふまえて決定します。この手術は大腿骨・脛骨に骨孔(靭帯が通るための穴)を作製し、そこに再建靭帯を通してそれぞれの骨に固定材料を用いて固定する手術です。
2つの方法は以下のメリット・デメリットがあります。
半腱様筋腱(ST)/薄筋腱(G)を使用した(解剖学的)靭帯再建術
膝を深く曲げるときに作用する腱(ST/G)を再建靭帯に用いて手術を行います。
メリットとしては膝の重要な筋である大腿四頭筋に直接影響を与えないため、術後に筋力が低下しにくい点があります。デメリットとしては、通常スポーツ完全復帰時期は約10~12か月となります。
メリット | デメリット |
・術後、筋力が低下しにくい | ・腱成分と骨が安定するまで時間がかかる (スポーツ復帰に約10~12ヶ月かかる) |
長方形型骨孔を用いたBTB再建術
BTBとはBone(膝蓋骨)-Tendon(膝蓋腱)-Bone(脛骨)の略で、腱のみを用いるST/G法と最も異なるのは再建材料の両端に骨があることです。前述したように骨の穴に再建靭帯を通す手術であるため、両端に骨があると骨の内で骨癒合することで再建靭帯が早期に安定することができます。そのためスポーツ完全復帰が約8か月となります。デメリットとしては膝の前面から再建靭帯を採取しているので、膝前面痛が生じやすくなることや大腿四頭筋の筋力低下が起こりやすいことがあげられ、リハビリ加療での上記対応が早期復帰には重要になります。
当院の工夫としては骨の穴の形と再建靭帯の骨部分をともに長方形に形成して行うことです。それにより再建靭帯が骨の内でより、さらに前十字靭帯本来の形態・走行を再現できます。
メリット | デメリット |
・再建靭帯が早期に安定する ・スポーツ完全復帰が約8か月 | ・膝前面痛が生じやすくなる ・大腿四頭筋の筋力低下が起こりやすい |
上記方法を競技特性もふまえてどちらで行うか希望に添いながら決定します。
長方形骨孔による再建術の1例
靭帯の骨性部分が長方形に作成した大腿骨骨孔の中で安定しているのがわかります。
これにより骨孔内での靭帯の安定性を獲得することができます。